建築基準法では、吹付けアスベストとアスベスト含有吹付けロックウールが規制対象になります。従って、建築物内に吹付けアスベストとアスベスト含有吹付けロックウールが使用されている場合は、増改築、大規模な修繕・模様替えの際には、除去等(一定の規模以下の場合は封じ込め又は囲い込みを許容)を行なわなければなりません。
アスベストを使用した建築物を解体する予定がありますが、法的規制はありますか。
労働者のアスベストばく露防止の観点から、労働安全衛生法、石綿障害予防規則が適用され、周辺環境へのアスベスト粉じん飛散防止の観点から、大気汚染防止法が適用されます。これらの法令により、アスベストの使用の有無の事前調査、作業の届出等が義務づけられています。
また、解体により生じる廃棄物は、建設リサイクル法、廃棄物処理法に従い、適切に処理する必要があります。なお、各地方公共団体の条例による規制がある場合はそれを遵守してください。
アスベストはどこにどのようなものが使用されていますか。
アスベスト含有建材は、住宅や倉庫では外壁、屋根、軒裏等に成形板として、ビルや公共施設では梁・柱の耐火被覆、機械室等の天井・壁の吸音用等に吹付け材として使用されています。
アスベスト含有建材は、以下に大きく分類されます。
- 鉄骨の耐火被覆材、機械室等の吸音・断熱材、屋根裏側や内壁などの結露防止材としての吹付け材
- 鉄骨の柱、梁等の耐火被覆成形板
- 天井等の吸音・断熱及び煙突の断熱としての断熱材
- 天井・壁・床の下地、化粧用内装材、天井板、外装材、屋根材等の成形板その他、建材以外でも自動車のブレーキ、高圧電線の絶縁材、各種シーリング材等に使用されています。アスベストが使われている家庭用品についての注意事項は環境省ホームページ(アスベスト含有家庭用品の廃棄について:下記のURL)に掲載されておりますので、ご覧ください。
居室や通路を見渡しても露出した状態のアスベストは見当たりません。健康障害をおこす飛散する恐れのあるアスベストはないと考えてよろしいのでしょうか。
アスベストらしき吹付け材料が露出しておらず、見た目では確認されない場合でも、隠れたところに存在することが良くあります。例えば、天井裏や建物の外壁面などによく見られます。天井裏は天井によって隔離されていると考えられがちですが、空調の経路として天井裏を利用していることも多くあります。また様々な照明器具が天井に設置されていますが、照明器具の配線は天井裏を通しており、これらの配線の通線部は見た目では確認できませんが空気の流通があります。
また、様々な点検口が天井面などに多く設置されていますが、開口部の周辺には隙間があり、ここからも空気の流れが生じています。外壁面では、外壁の裏側に断熱や延焼防止を目的として吹付け材や成型断熱材が使用されていることもあります。外壁と床との取り合い部の隙間の処理材料として吹付け材が使用されていることもあります。これらも窓付近のカウンターで隠蔽されているように見えますが、カウンターにはペリメータ空調機などが設置されており、外壁に施工された材料周辺の空気を積極的に室内へ拡散している場合も見受けられます。
また、湿式吹付けの耐火間仕切壁の表面をコテ押さえとし、その上に壁紙を直に張り、仕上げていることもあります。更に、コンクリート面などには吹付け材が施工されている上に、断熱性能向上のため、ウレタン吹付けを施工したり、吸音性向上のためにグラスウールを貼り付けるなどの施工がされ、下地が全く見えない状態になっていることも良く見受けられます。
このように見た目ではアスベストらしき吹付け材料が見受けられない場合でも、空気が流通する場所に施工されていることがあるため、安易に見えないからアスベストが無いという判断は不適切と考えられます。以下にその事例を示します。
- 内装仕上げ材の下に吹付け材が存在する例:
- 商業ビルでグラスウール断熱材の裏の吹付け材があった。
- 共同住宅の最上階で天井ボードの裏に吹付け材があった。
- 商業ビルで天井石膏ボードの裏に吹付け材があり、ビニールで被膜されていた。
- 商業ビルの機械室でガラスクロスの下に吹付け材があった。
- スタジオで吸音用ウレタン穴開きマット下に吹付け材があった。
- 空調機械室でグラスウール貼りの下に吹付け材があった。
- 寒冷地のビルで吹付けロックウールの上にウレタン吹付けが施工されていた。
- アスベスト含有吹付け材の上からアスベストを含有しないロックウールを吹き付けた例:
- RC造天井で部屋の一部に旧吹付け材があり、その後の設備改修時にロックウール吹付け材が施工された。
- 耐火被覆で表層はアスベストを含有していないロックウールであるが、内側に旧工事のアスベスト吹付けがあった。
- RC造スラブの天井で吹付け材が2層になっていた。
- 居室で吹付けアスベスト材の上からアスベスト対策工事としてひる石プラスターが吹付けられてあった。他に3層の例もあった。
- 二重吹きの例:
木毛セメント板の下にアスベスト吹付け材が施工されていた。
- 注)
- 天井の点検口から天井裏を自ら確認したり、仕上げ材の裏側を自ら確認すると、アスベストにばく露する恐れがありますので、調査者等アスベスト調査の専門家に調査を依頼することをお勧めします。
建築物でアスベストが使われているか、どのように調べたらよいのですか。
建築物を施工した建設業者又は工務店、あるいは分譲住宅等を販売した宅建業者に問い合わせ、設計図書(建築時の施工図・材料表等)で確認します。ただし、アスベストの使用が記載されていない場合や、後に改修工事や補修工事でアスベストが使用された可能性もあり、現地調査と合わせて調査する必要があります。
アスベスト含有吹付け材が規制された年代と建築年次、使用されている用途などによりある程度は類推できますが、調査者等アスベスト調査の専門家(※)に依頼することをお勧めします。
- ※
- 大気汚染防止法、石綿障害予防規則に基づくアスベストの使用の有無の「事前調査」を行わせるべき者については、厚生労働省労働基準局長通達(平成26年4月23日基発0423第7号)において、「建築物石綿含有建材調査者、石綿作業主任者技能講習修了者のうち石綿等の除去等の作業の経験を有する者及び日本アスベスト調査診断協会に登録された者」など石綿に関し一定の知見を有し、的確な判断ができる者が調査を行うこととされています。
建築物石綿含有建材調査者(略称:調査者)とは、「建築物石綿含有建材調査者講習登録規程」(平成25年国土交通省告示第748号)に基づき、登録講習機関が実施する講習を修了し「建築物アスベスト含有建材調査者」の公的資格を与えられた中立かつ公正なアスベスト調査の専門家です。調査者等を活用することにより、アスベストの使用の精確な調査を行うことが重要です。
現在、所有している建物を調査するにはどのような手順で行えばよいのでしょうか。
【事前相談】
吹付けアスベストなどアスベスト含有建材が使われているのではないかと不安になったら、まずは弊社にお問い合わせください。アスベストの調査は、調査者等の専門家に依頼するようにしてください。
【調査】
- 契約後、調査者等はまず、図面調査でお住まいの建築物を確認しますので、お手元に建築物の図面(断面図、構造図、仕上げ表など)を準備してください。必ずしも図面が揃っていなくても調査は可能です。
- 必要に応じて、調査者等は現地調査をし、必要箇所の建材をサンプリングし、 分析会社に分析を依頼します。
【調査後】
- 分析の結果が出ましたら、調査者等が調査票を作成しますので、調査結果及び今後の維持管理に必要な事項の説明を受けましょう。
- この調査結果は将来、改修・解体する時に必要となりますので、大切に保管して下さい。
現地におけるアスベスト調査ではどのようなことを調査するのでしょうか。
現地調査により調査票を作成します。調査票の必要項目を下表に示します。
NO. | 大項目 | 調査項目 |
---|---|---|
1 | 建築物の概要 | 名称、所在地、所有者名、竣工年、建築物用途、構造種別、敷地面積、延べ面積等 |
2 | 今回の調査の概要 | 調査会社名、調査者氏名、調査日、分析会社名等 |
3 | 過去の調査歴等 | 調査時期、調査会社名、分析会社名、調査報告書の有無、アスベスト処理歴等 |
4 | 調査内容 | 室名称、部位、建築材料名称、建築材料の飛散性のレベル、調査手法(目視か分析か)、分析結果、劣化度、使用頻度、調査写真等 |
建築物にアスベストが使用されているかどうかを調べる専門の技術者には国の資格があるのでしょうか。
建築及びアスベストについて専門的な知識と技能を有し、アスベストの使用実態の把握が的確にできる人材を育成することを目的として、平成25年7月に建築物石綿含有建材調査者制度が創設されました。この制度は、登録機関となるための要件を満たした機関が実施する講習を修了すると「建築物石綿含有建材調査者」の資格が付与されるものです。将来的には、この調査者が建築物のアスベスト調査に従事することを国庫補助の要件とすることも検討されています。
調査者とはどのような専門知識を持った方なのですか。
建築物石綿含有建材調査者はアスベストに関する知識を有しているだけでなく、建築物の調査に関する実務に精通しているアスベスト調査の専門家です。アスベストに関してはアスベストが使われている建材に関する知識を有し、建材の採取方法や分析技術、さらには分析結果の解析力があり、アスベスト含有建材の維持管理方法に関する知識を有しています。また、建築物に関しては、意匠・構造・設備の知識の他、建材・施工手順・工法に関する知識を有し、設計図書や施工図などを読み解き、必要な情報を抽出することができます。さらに、アスベストのもたらす社会的な危険性を理解し、中立的な立場から精確な報告を行う力を有しています。
アスベスト調査をして建築物にアスベスト含有建材が使用されていることがわかった場合、資産価値が下がるのではないかと心配です。
不動産取引において、アスベスト含有建材が存在する場合、アスベスト含有建材の除去費用分が資産価値から減額されます。建物所有者または管理者は、できるだけ早い段階でアスベスト調査をして、アスベスト含有建材の有無や建材の状態を把握しておくことをお勧めします。アスベスト調査がされてなく、アスベスト含有建材の存在が不明な場合は、建設年代等から判断し、アスベスト含有建材「有り」として厳しく減額するか、買い手側が環境デュー・ディリジェンスの一環として専門家によるアスベスト調査を行い、減額交渉をしてくることが一般的になっています。減額が大きいと不動産取引そのものが成立しなくなってしまいます。いずれにせよ、不動産取引の最中に想定していない新たな資産価値減額の問題が出てくると時間的に対応も難しくなり、交渉も後手後手になり、実際よりも不利になると考えられます。
また買い手側のアスベスト調査ではテナントへのばく露リスクも評価され、テナントがばく露している可能性が高い場合は、買い手側の不動産事業そのものが成り立たない物件とされ、取引が中断されるケースも見られます。このようなテナントがばく露しているケースは、現在の建築物所有者および管理者にとっても不動産事業の大きなリスクになります。
建築物所有者または管理者は、早い段階で建築物のアスベスト含有建材の有無や状態を把握して、優先順位を決め、中期的な改修・リノベーションの中で、計画的にアスベスト含有建材の除去をしていくことをお勧めます。またそのきちんとした改修記録と計画は、不動産取引の際、買い手側の不当な減額交渉にも対抗する材料にもなります。
2010年4月から、国内の企業会計に資産除去債務が導入され、有価証券の発行者は、原則として、建築物にアスベスト含有建材が存在するか否かを調査して資産除去債務を合理的に見積もり、資産除去債務を負債として計上するとともに、これに対応する除去費用を有形固定資産に計上する会計処理を行うこととされています。建築物などに使われているアスベストにばく露することで発生する疾病を未然に防止するだけでなく、国内企業が会計ルールをめぐる海外からの要請に応えていくためにも、建築物におけるアスベストの使用実態の精確な調査は、ますますその重要性を増しています。